Posted by TWAK
最近「エスノグラフィー」というものを応用した、行動観察による消費者調査のやり方が日本でも話題になってきているみたいですね。
エスノグラフィーとはそもそもは民族誌学の用語・手法のようですが、これをある意味俗化してマーケティングやイノベーションの手法として活用しよう、という動きのようです。
僕もこの分野に前から興味があったこともあり、また当サイトが目論んでいる、「感覚」面を重視した商品・サービス企画においても効果を発揮しそうなので、その現状を一通りまとめてみます。
行動観察による消費者調査とは
行動観察による消費者調査をもとにしてプロダクトのイノベーションをおこしまくる、「IDEO」という有名なデザイン会社がアメリカにあります。この会社の採用時の課題にこんなものがありました。
「公園に行き、何組かの親子連れの行動を数時間観察し、その観察結果から得られた発見をもとに、子育て中の親にむけて提案する製品案をまとめなさい」
一般に、たとえばこのように小さい子をもつ親向けの製品を企画しようとすると、親のニーズをつかんでアイディアをまとめるために、インタビューやアンケートなどで親の困っていること、欲しいと思っていることなどをききだす形が従来の消費者調査でした。
この従来のやり方とIDEOのやり方を比較すると、従来のやり方は、消費者が「言葉にして答えたこと」をベースにものごとを分析します。一方、IDEOのやり方は、消費者が「行動として表したこと」をベースにものごとを分析します。分析のベースにする発見をどうやって得るのかが根本的な違いのようです。
では、この違いは何を生むのでしょうか。従来のやり方(インタビューやアンケート)における誤った認識として、ジェラルド・ザルトマン著『心脳マーケティング』では以下のように述べられています。
【従来の市場調査やマーケティング活動についての6つの誤り】
1. 生活者の思考プロセスは筋の通った合理的なものである
2. 生活者は自らの思考プロセスと行動を容易に説明することができる
3. 生活者の心・脳・体、そしてそれを取り巻く文化や社会は、個々に独立した事象として調査することが可能である
4. 生活者の記憶には彼らの経験が正確に表れる
5. 生活者は言葉で考える
6. 企業から生活者にメッセージを送りさえすれば、マーケターの思うままに、これらのメッセージを解釈してくれる
ここでの引用の意図に沿ってまとめると、「消費者がなにかをした(選んだ、好きになった、買ったなど)とき、自分がなぜそれをしたのかを明確に意識し、言葉で正しく説明できるとは限らない」ということです。
一方、インタビューやアンケートの回答には、消費者が自分で意識できた(と思っている)ことが言葉として出てきているだけです。このようなアウトプットだけに基づいてものごとを組み立てることが、本当に消費者心理を考慮した結果となるのかどうかはちょっと難しい判断です。
この状況を補完するやり方として、行動観察による消費者調査が登場してきたようです。言葉としてはなかなか出てこないが、無意識のうちに行動に表れてしまう思いやニーズを観察し、くみ取ろうというアプローチです。「行動は嘘をつかない」ということですね。
行動観察による商品企画の例
このアプローチを説明する好例として、例えばauの携帯電話「INFOBAR」のデザインなどでよく知られる深澤直人氏の以下のような話がありました(深澤氏も元IDEOの社員だそうです)。
家の玄関におく、新しい傘立てをデザインすることを考える。傘立てに傘をたてる人を観察してみる。傘立てがいっぱいになっている場合、多くの人が、傘が滑って倒れないように床のタイルの目地に傘の先を合わせて壁に立てかけていることが観察される。ここから、玄関の床に、壁に平行に一本のくぼみをいれたものを新しい傘立てとしてデザインする。
こういった結果は、インタビューやアンケートで「新しい傘立てにどんなものがいいと思いますか」「いまの傘立てについて不満に思うことは何ですか」などと聞いて、言葉で回答を得ようとしてもなかなか難しそうです。
「明確に意識はできていないけども行動に表れてしまうニーズ」を行動観察はひろうことができる、という一例です。
行動観察による調査の注意点、そして従来型の調査とのすみ分け
行動観察による調査は、定量的なアンケート調査とは違い、定性的な分析がメインとなります。そのため、結果を導く過程で分析者の主観や恣意性が少なからず介在してしまいます。
なので、スキルや理解のある分析者とそうでない分析者との間では、その分析結果に大きくブレが生じ得る、という注意点があります。
行動観察による調査は、従来のインタビューや質問票による調査を完全に代替するものではなく、むしろ適切に補完しあうべき位置づけにある、としたほうが良いのかもしれません。
「今までわからなかったことが行動観察でもう全部わかっちゃう」と表面的なブームの様相を呈してしまうと、その過剰な期待にこたえられず反動的な批判も多くなる、という展開も起こりえます。適切な位置づけを理解した上で利用することが良いのではないかと思います。
行動観察による消費者調査へのとりくみ
行動観察による消費者調査へのとりくみは、欧米がかなり進んでおり、日本では最近徐々に話題になり始めてきたという状況のようです。
欧米でのとりくみ(ユーザー行動を深く理解する「エスノグラフィー」 / IT-PLUSより)
・企業でのエスノグラフィー適用の先駆の一つは、79年に米ゼロックスのパロアルト研究所に入った文化人類学者のルーシー・サッチマン(現ランカスター大学教授)の取り組み。ユーザーがコピー機を実際にどう使っているかを撮影し、そこからの発見を製品開発に適用。
・米食品メーカー大手のゼネラル・ミルズでは、10年前は8割の消費者調査がフォーカス・グループだったが、いまはエスノグラフィーによる個別ユーザーの観察が半分を占めるという。
・米日用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のA・G・ラフリーCEOは「我々は、消費者の家に住み、共に買い物をし、生活の一部となることに、以前と比べはるかに多くの時間を費やしている。これによりはるかに豊かな洞察が得られる」と07年の米メディアでのインタビューで語っている。P&Gは00年から個別ユーザーの調査予算を5倍にしているという。
・マイクロソフトのウィンドウズ、モバイル、インターネットなどの各事業部には、家庭や職場のユーザーを観察する要員が300人いる。ウィンドウズ・ビスタの開発では、米国40世帯、日本、ドイツ、フィンランド、インド、イスラエル、メキシコ各国2世帯を観察した。これにより1000件ほどの問題が見つかったが、その8割はマイクロソフトのテストチームでは見つからなかったものだという。
・携帯電話機シェアトップのノキアは、商品開発プロセスにエスノグラフィーを組み入れ、成長市場である発展途上国にエスノグラフィー調査要員を送り込んでいる。例えばアフリカならば一台を家族や村で共用する地域もある。インドネシアとウガンダを比較してみるなど、もともとのエスノグラフィーの意味に近いやり方もとっている。
日本でのとりくみ
【花王】消費者調査にエスノグラフィー手法を導入
【大阪ガス】調査手法「エスノグラフィー」をサービス改善などに活用
【大阪ガス】「行動観察研究所」
【大阪ガス】子会社「エルネット」が提供する行動観察サービス
【大日本印刷】消費者行動調査に基づいて開発中のサービス「Magitti」
【ビービット】進化するユーザビリティテスト〜「ユーザー行動観察調査」の効果・効能
【博報堂】イノベーション・ラボ(IDEO社との協働によるデザインコンサルティングを提供)
また、行動観察手法を学ぶことのできるセミナーも開催され始めているようです。
【東京大学 i.school】ワークショップ 人間中心イノベーション・ワークショップ – IDEO流イノベーションの真髄を体験!(残念ながら東京大学の学生限定)
【JMA】ビジネス・エスノグラフィ実戦コース
その他参考書籍・URL
・thoughtless acts? / Jane Fulton Suri + IDEO
:IDEOが行動観察をする目線で撮影した写真集。行動観察の問題集としてバイブル。
・考えなしの行動? / Jane Fulton Suri + IDEO、森博嗣訳
:上記thoughtless acts?の邦訳版。こちらは読み物としてのおもしろさを強めるため内容が少し再構成されている。装丁は原書と比べるとイマイチ。
・発想する会社! — 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法
:IDEOという会社の、行動観察だけにとどまらない魅力を堪能できます。
・NIGHTLINE: Deep Dive: 7/13/99
:アメリカのABCニュースでIDEOに密着取材した特集のDVDが購入できます。5日間でスーパーマーケットのショッピングカートを行動観察によりリデザインする話。
・イノベーションを創るIDEOワークプレイス
:IDEOのオフィスとはどんな感じなのかをレポートしたPDFファイル(日本語)がダウンロードできます。
エスノグラフィーとはそもそもは民族誌学の用語・手法のようですが、これをある意味俗化してマーケティングやイノベーションの手法として活用しよう、という動きのようです。
僕もこの分野に前から興味があったこともあり、また当サイトが目論んでいる、「感覚」面を重視した商品・サービス企画においても効果を発揮しそうなので、その現状を一通りまとめてみます。
行動観察による消費者調査とは
行動観察による消費者調査をもとにしてプロダクトのイノベーションをおこしまくる、「IDEO」という有名なデザイン会社がアメリカにあります。この会社の採用時の課題にこんなものがありました。
「公園に行き、何組かの親子連れの行動を数時間観察し、その観察結果から得られた発見をもとに、子育て中の親にむけて提案する製品案をまとめなさい」
一般に、たとえばこのように小さい子をもつ親向けの製品を企画しようとすると、親のニーズをつかんでアイディアをまとめるために、インタビューやアンケートなどで親の困っていること、欲しいと思っていることなどをききだす形が従来の消費者調査でした。
この従来のやり方とIDEOのやり方を比較すると、従来のやり方は、消費者が「言葉にして答えたこと」をベースにものごとを分析します。一方、IDEOのやり方は、消費者が「行動として表したこと」をベースにものごとを分析します。分析のベースにする発見をどうやって得るのかが根本的な違いのようです。

では、この違いは何を生むのでしょうか。従来のやり方(インタビューやアンケート)における誤った認識として、ジェラルド・ザルトマン著『心脳マーケティング』では以下のように述べられています。
【従来の市場調査やマーケティング活動についての6つの誤り】
1. 生活者の思考プロセスは筋の通った合理的なものである
2. 生活者は自らの思考プロセスと行動を容易に説明することができる
3. 生活者の心・脳・体、そしてそれを取り巻く文化や社会は、個々に独立した事象として調査することが可能である
4. 生活者の記憶には彼らの経験が正確に表れる
5. 生活者は言葉で考える
6. 企業から生活者にメッセージを送りさえすれば、マーケターの思うままに、これらのメッセージを解釈してくれる
ここでの引用の意図に沿ってまとめると、「消費者がなにかをした(選んだ、好きになった、買ったなど)とき、自分がなぜそれをしたのかを明確に意識し、言葉で正しく説明できるとは限らない」ということです。
一方、インタビューやアンケートの回答には、消費者が自分で意識できた(と思っている)ことが言葉として出てきているだけです。このようなアウトプットだけに基づいてものごとを組み立てることが、本当に消費者心理を考慮した結果となるのかどうかはちょっと難しい判断です。
この状況を補完するやり方として、行動観察による消費者調査が登場してきたようです。言葉としてはなかなか出てこないが、無意識のうちに行動に表れてしまう思いやニーズを観察し、くみ取ろうというアプローチです。「行動は嘘をつかない」ということですね。
行動観察による商品企画の例
このアプローチを説明する好例として、例えばauの携帯電話「INFOBAR」のデザインなどでよく知られる深澤直人氏の以下のような話がありました(深澤氏も元IDEOの社員だそうです)。
家の玄関におく、新しい傘立てをデザインすることを考える。傘立てに傘をたてる人を観察してみる。傘立てがいっぱいになっている場合、多くの人が、傘が滑って倒れないように床のタイルの目地に傘の先を合わせて壁に立てかけていることが観察される。ここから、玄関の床に、壁に平行に一本のくぼみをいれたものを新しい傘立てとしてデザインする。
こういった結果は、インタビューやアンケートで「新しい傘立てにどんなものがいいと思いますか」「いまの傘立てについて不満に思うことは何ですか」などと聞いて、言葉で回答を得ようとしてもなかなか難しそうです。
「明確に意識はできていないけども行動に表れてしまうニーズ」を行動観察はひろうことができる、という一例です。
行動観察による調査の注意点、そして従来型の調査とのすみ分け
行動観察による調査は、定量的なアンケート調査とは違い、定性的な分析がメインとなります。そのため、結果を導く過程で分析者の主観や恣意性が少なからず介在してしまいます。
なので、スキルや理解のある分析者とそうでない分析者との間では、その分析結果に大きくブレが生じ得る、という注意点があります。
行動観察による調査は、従来のインタビューや質問票による調査を完全に代替するものではなく、むしろ適切に補完しあうべき位置づけにある、としたほうが良いのかもしれません。
「今までわからなかったことが行動観察でもう全部わかっちゃう」と表面的なブームの様相を呈してしまうと、その過剰な期待にこたえられず反動的な批判も多くなる、という展開も起こりえます。適切な位置づけを理解した上で利用することが良いのではないかと思います。
行動観察による消費者調査へのとりくみ
行動観察による消費者調査へのとりくみは、欧米がかなり進んでおり、日本では最近徐々に話題になり始めてきたという状況のようです。
欧米でのとりくみ(ユーザー行動を深く理解する「エスノグラフィー」 / IT-PLUSより)
・企業でのエスノグラフィー適用の先駆の一つは、79年に米ゼロックスのパロアルト研究所に入った文化人類学者のルーシー・サッチマン(現ランカスター大学教授)の取り組み。ユーザーがコピー機を実際にどう使っているかを撮影し、そこからの発見を製品開発に適用。
・米食品メーカー大手のゼネラル・ミルズでは、10年前は8割の消費者調査がフォーカス・グループだったが、いまはエスノグラフィーによる個別ユーザーの観察が半分を占めるという。
・米日用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のA・G・ラフリーCEOは「我々は、消費者の家に住み、共に買い物をし、生活の一部となることに、以前と比べはるかに多くの時間を費やしている。これによりはるかに豊かな洞察が得られる」と07年の米メディアでのインタビューで語っている。P&Gは00年から個別ユーザーの調査予算を5倍にしているという。
・マイクロソフトのウィンドウズ、モバイル、インターネットなどの各事業部には、家庭や職場のユーザーを観察する要員が300人いる。ウィンドウズ・ビスタの開発では、米国40世帯、日本、ドイツ、フィンランド、インド、イスラエル、メキシコ各国2世帯を観察した。これにより1000件ほどの問題が見つかったが、その8割はマイクロソフトのテストチームでは見つからなかったものだという。
・携帯電話機シェアトップのノキアは、商品開発プロセスにエスノグラフィーを組み入れ、成長市場である発展途上国にエスノグラフィー調査要員を送り込んでいる。例えばアフリカならば一台を家族や村で共用する地域もある。インドネシアとウガンダを比較してみるなど、もともとのエスノグラフィーの意味に近いやり方もとっている。
日本でのとりくみ
【花王】消費者調査にエスノグラフィー手法を導入
【大阪ガス】調査手法「エスノグラフィー」をサービス改善などに活用
【大阪ガス】「行動観察研究所」
【大阪ガス】子会社「エルネット」が提供する行動観察サービス
【大日本印刷】消費者行動調査に基づいて開発中のサービス「Magitti」
【ビービット】進化するユーザビリティテスト〜「ユーザー行動観察調査」の効果・効能
【博報堂】イノベーション・ラボ(IDEO社との協働によるデザインコンサルティングを提供)
また、行動観察手法を学ぶことのできるセミナーも開催され始めているようです。
【東京大学 i.school】ワークショップ 人間中心イノベーション・ワークショップ – IDEO流イノベーションの真髄を体験!(残念ながら東京大学の学生限定)
【JMA】ビジネス・エスノグラフィ実戦コース
その他参考書籍・URL
・thoughtless acts? / Jane Fulton Suri + IDEO
:IDEOが行動観察をする目線で撮影した写真集。行動観察の問題集としてバイブル。
・考えなしの行動? / Jane Fulton Suri + IDEO、森博嗣訳
:上記thoughtless acts?の邦訳版。こちらは読み物としてのおもしろさを強めるため内容が少し再構成されている。装丁は原書と比べるとイマイチ。
・発想する会社! — 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法
:IDEOという会社の、行動観察だけにとどまらない魅力を堪能できます。
・NIGHTLINE: Deep Dive: 7/13/99
:アメリカのABCニュースでIDEOに密着取材した特集のDVDが購入できます。5日間でスーパーマーケットのショッピングカートを行動観察によりリデザインする話。
・イノベーションを創るIDEOワークプレイス
:IDEOのオフィスとはどんな感じなのかをレポートしたPDFファイル(日本語)がダウンロードできます。
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性別:
男性
自己紹介:
好きなのび太の名言は、「あったかいふとんでぐっすり寝る、こんな楽しいことがあるか!」(てんとう虫コミックス 第6巻)
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